ところで第四隊の面々はまだコルビと顔をあわせていなかった。
「あれ?コルビ、なんかやつれなかった?」
シグが開口一番言った。
確かにコルビは明らかにやつれていた。それになんとなく疲れた顔をしている。ただ単に疲れているのではなく、悩みごとをかかえていてそれで疲れているような顔だ。
「悩みごとでもあるのかい?」
ファルコンの問いにコルビは
「ほっといて。」
といつもの調子でそっけなく答えた。アルタイルやアルタイルの母は思っていても口に出さなかったが、内心気になっていたかもしれない。
由紀が第四隊に入隊することになった。
「ただし、今から言う仕事をうまくできたらです。」
イブが言った。どの程度の腕なのか楽しみだとでもいうようににこにこ笑っている。
「仕事、ですか?」
由紀が聞き返す。
イブの話によるとその仕事とは雪谷から歩いて少しかかる所に有名な山賊がいて、そいつらを全員始末するというものだ。全部で二十人いるらしい。
「彼女にやらせるんですか?イブ様。かなり腕がたつ奴もいるって話ですけど。」
コルビが言った。由紀にできるか疑問だったのだ。
「ええ。だから由紀にやらせるのです。」
イブにきっぱりと答えられてコルビは反論できなくなっった。
という訳で由紀は愛用のベージュのキャスケット帽をかぶって夕暮れの中を歩いていた。その顔はどこか不安そうだ。
由紀が歩いているのは開けた森の小道だった。由紀は立ち止まった。そして道をはずれて森の中に歩いていき茂みに身を隠した。
そこでしばらく待っていた。
辺りが真っ暗になった頃、山賊たちがやって来た。合計二十人。何人かは手に松明を持っている。
「風使いって知ってるか?」
一人が言った。
「ああ。風を起こしたり切り裂いたりできるんだろ?で、そいつの血を飲んだらその力が手に入るんだってよ。」
風使いの命が狙われる大きな理由は風使いの血を飲むと風使いの力が手に入るという言い伝えがあるからだ。
こんな夜だと松明なしでは由紀も何も見えない、かもしれないが由紀は最近五感と第六感が鋭くなるのを感じんていた。なので夜でたいまつなしでも大丈夫なのだ。
由紀は強い風を起こして松明を消した。
「おい、火ぃつけろ!」
暗い中、ざしゅっ、ざしゅっ、という音が何回か聞こえた。
ようやく灯りがともった頃、五人の男が首をなくしていた。
「ひ・・・ひ・・・」
若い男が恐怖の声を漏らした。
由紀は考えた。まともに戦っても勝てないのは分かるが同じ手が何度も通用するようには思われない。どうすればいい?
「油断するな。」
頭らしい男が言った。
どうすればいい?どうすればうまく全員始末できる?
月が雲から出てきた。一人の男が月明かりを頼りにこっちに歩いてきた。
「あの殺し屋、どこにいやがる。こそこそ隠れやがって。」
荒い息をはきながらゆっくりと歩いている。由紀には気付いていないらしいが、すぐに気付かれてしまう。あともう少しで気付かれるとういう距離になると由紀は男の首を風の刃ではねた。
返り血が少女の顔に飛び散る。
全員が振り向いた。紺色のジャケット姿の少女を見つけた。
「あ、あいつか?」
男の一人が言った。
「バカいうな。あんな小娘が人を六人も殺すか?」
もう一人はそういうが、
「いや、そいつだ。」
頭が言った。そしてそれが彼の最後の言葉となった。由紀が片手を振ると体が真っ二つになって死んだ。
「お頭ーーーー!」
男たちが叫んだ。死体を見て嘆いた。が、嘆いている暇などなかった。そうしている間に三人が首をはねられたり体を真っ二つにされたりして死んだ。
「あと十三人。」
由紀は呟いた。男達が襲いかかってきた。手にはそれぞれ刃物を持っている。
「どおりゃあ!」
間一髪の所で由紀は高く後ろに跳んで大きな木の上に着陸した。実際由紀は自分の脚力では少ししか跳んでおらず、風を起こして体を吹き飛ばしたのだ。さらに二人が見えない刃で倒れた。
由紀は木から飛び降りながらジャケットの左袖からナイフを抜いた。殺し屋を前に山賊達は緊張気味だ。由紀は荒い息を吐いて堅い表情をしている。
由紀は一歩踏み出した。男達は踏み止まる。もう一歩踏み出す。
正面にいる若い男と目があった。男は由紀に襲いかかった。由紀は素早く反応しよけた。由紀の目が一瞬黄色く光り、男は風に吹き飛ばされた。周りにいる男達も強い風に少しひるんだ。
由紀は隙を逃さず、ナイフを持っていない手を振り上げ、風の刃で若い男を切り裂いた。
山賊達が一斉に襲いかかってきた。最初の一人をナイフでなんとか斬る。風で男達を吹き飛ばして間合いをとり風の刃で彼らを斬っていった。
残り一人。由紀はさらに緊張している。この男は初めから今まで余裕の表情で、由紀はなんとなく自分よりもずっとうわてなのではと思っていた。
「お嬢ちゃん、なかなかだね。」
男は言った。五十代程の男だ。普通の表情をしている。
「だがまだまだ甘いな。こいつらは戦闘訓練など全く受けていないから良かったが。」
「あなたは誰です?」
由紀は訊いた。
「わしか?ただのじじいだ。」
そんなことは見れば分かると由紀は思った。
「攻撃してこないんですね。」
由紀が言う。
「焦ってはならん。」
二人は円を描くように歩き始めた。
由紀がつまずいて転びそうになった。男がナイフを片手に襲いかかってきた。由紀は慌ててよけた。由紀はナイフに向かって右の手のひらを向けた。手のひらから空気のたまのようなものが発射されナイフは弾きとばされて遠くに飛んでいった。
さらに片手をふって空気のたまを投げ、それは男の脇腹にあたった。男はひるんだ。
あれは相当痛いだろう。ボールが当たったようなものだ。ボールよりも威力はあるだろうが。
もう一発空気のたまを男に向けて投げた。たまは男の頭を砕いた。
「死んじゃった・・・・・・・・・」
由紀は呟いた。しばらく呆然としていたが、すぐに我に返ってかぶりを振った。空は星がまたたいている。
風使いは自然の風と心を通いあわせたり、風を読んだりすることができる。風はのんびりと穏やかに吹いていた。由紀は雪谷を目指して歩いた。
<解説>
長いですね、はい。
こ、怖い所じゃのう・・少女がひ、人殺し・・・?物騒な・・・