その日の晩、三人は野宿をします。
由紀は走り続けた。転ばないように、それだけを考えて走った。謎の声は由紀に進む道を案内していた。由紀は人気のない山の中を走っていた。
「その先で右に。そこにいるわ。」
曲がると向こうの方に黒い服に黒いマントを着た長身の女性がいた。由紀は謎の声に言われるままに操縦した。バイクがとまり、ガルムが茂みから現れてバイクを支えてスタンドをかけた。
「ガルム・・・」
由紀はだるそうに言った。そして長身の女性はコルビである事に気がついた。
「コルビさん、だね。」
「ええ。さん付けしなくてもいいわ。」
「さっきまで聞こえた声、一体なんなの?」
由紀が不思議そうに訊いた。
「あれは私の声よ。テレパシーで話しかけたの。私が魔術師だって事も、ガルムが風使いを助ける魔狼で光弾使いだって事も話したでしょ。あと、あなたが運命の風使いだって事もね。あなただるそうね。」
由紀は心底だるそうな顔をしている。由紀の胸に悲しみがこみあげてきた。コルビは由紀を道の脇の砂利がひいてある空き地に引っ張った。由紀は力なくへたり込んで泣きだしてしまった。今までずっと我慢していたのだろう。コルビはそんな由紀の脇にしゃがんで慰めるように背中をさすった。コルビは陰気だが本当は優しいのだ。その様子をガルムはじっと見ていた。由紀はしばらく泣いて泣きやんだ後、精神的にも肉体的にも少し元気を取り戻した。
その晩、山の中で野営をしていた。
「ケストの手下だったんだ、校長先生。最近来た先生だけど。」
由紀が言う。焚き火の火が燃えている。
「ああ。ケストの奴ならだまして手下にする位、多分簡単だろう。闇の世界の奴らは闇の世界から出ることはできないから少しは安心だな。少しでも闇の世界の外の生き物の血が流れてれば別だがな。昨日会った巨大な蛇はほとんど闇の世界の生き物の血だけみたいだけど少しは他の血もあるらしいな。」
ガルムが言う。
「ところでさ、コルビ。私の家を出る時こうやって手をかざしてマントをひるがえしたのはなんか意味があるの?」
由紀はコルビに訊いた。コルビは未だにフードを被ったままだった。
「あれはあなたをヒーリングしたのよ。風邪ひいてたからね。きちんとやらなかったけど。」
コルビはそう言ってフードを外した。整った美しい顔だちできれいなエメラルドグリーンの目。明らかに異常なほど青ざめたように白い肌に額に赤い石がうめこんである。そんな彼女の特徴的な顔を由紀はじっと見ていた。コルビは整った顔だちだし足が長いしスタイルもいい。とても美しい女性だ。
「私は人間じゃないから。人間の血は一滴も流れてないわ。」
由紀の視線に気づいたコルビが言う。
「魔界とかに関係あるの?」
「ええ。」
一同はしばらく黙った。由紀はなんとなくだるそうだった。
「そういえばよ、お前、その・・・・・前から気になってたんだけど、お前一体何歳なんだ?たまに”あれは少し前、えっと百年か二百年程前”とか言うけど。」
沈黙をやぶってガルムが訊いた。コルビはちらりとガルムを見てから少し考え、
「5149歳よ。」
と答えた。由紀は目をぱちくりさせた。コルビは
「由紀の事ちゃんとヒーリングしなきゃいけないわね。」
と付け足した。そしてヒーリングを始めた。あのメトルイ アルカメン サラクスという呪文を唱えていた。ヒーリングが終わると由紀は急に眠くなってきた。ヒーリングが効いてきた証拠だという。由紀はあっという間に寝てしまった。コルビは由紀に自分のマントをかけてあげた。コルビの行動にガルムは大きな銀色の目をぱちくりさせた。
「世界の終わりが来てもマントはかさないのに。」
ガルムが驚いたように言う。
「たまにはいいかと思って。」
コルビはそう言って宙に浮いてあぐらをかいてポーズをとり瞑想を始めた。ガルムは寝た。
次の日、最初に目を覚ましたのはコルビだった。すぐにガルムも目を覚ます。由紀は寝ていた。二人とも軽く運動をしてガルムは拳銃の整備もした。ガルムは由紀を起こした。
「あ、おはよう。コルビ、マントありがとう。」
コルビはマントを受け取りすぐに着た。朝食を食べた後、ガルムがこんな事を言った。
「行かなきゃいけない所がある。気になる事もあるし、ここでお別れだ。」
ガルムが言う。
「そう。行ってらっしゃい。」
コルビが言う。
「ああ、行ってくる。そうだ、このバイクは由紀にやるよ。これから行く所に持っていくと壊れるか途中で乗り捨てる事になる。」
「え?あ、いいの?」
由紀が言う。
「そういえばあなた、バイクなんていつの間に手に入れたの?前会った時は持ってなかったのに。半年前だったかしら。」
コルビが言う。
「手に入れたのは半年前だ。じゃあな。」
ガルムは荷物を背負ってどこかへ歩いて行った。バイクの荷台にはゴーグルとグローブが残されていた。由紀はそれに気づき、コルビはわざとだろうと言う。由紀は帽子とガルムが置いていったゴーグルをはめた。コルビはカラスに変身した。二人は出発した。
<解説>
以上、第九話野宿でした。ここでコルビの年齢が明らかになります。あと、あることがまだ明らかになっていない・・・(本人のみぞ知る)
妄想は膨らむ一方ですなぁ・・・コルビさんのお年はあの美しい方より上なのですね。まっ結構年食っているんだ。