ガルム放浪記 第十話馬術大会

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 その頃星山村ではショッキングな由紀の失踪事件は誰もが知っていた。小、中学校は休みだった。星山村の一大行事馬術大会が行われるためだ。星山村は馬の村と言われている。そんな中一人の旅人がやってきた。旅人は十代半ば程の少年だ。茶色い馬に乗り白いローブを着て鳥の頭のような形の兜をかぶっていて顔が見えない。手には手袋をしている。かなり変な格好の旅人だ。
「あ、ファルコン!」
旅人に話しかけた十代の半ばかそれより下の一人の少女。ポニーテールの黒い髪に黄色いコートを着ている。彼女も旅人で少し前からこの村に来ている。大きな肩掛けバッグを肩にかけていた。
「やあ、シグ。」
ファルコンと呼ばれた旅人が言う。あの少女はシグという名前らしい。
「キール元気にしてた?」
シグはファルコンの乗る馬を触りながら言った。
「キールなら快調だよ。」
ファルコンが答えた。その日の晩、二人は宿屋に泊まった。
 案内された部屋に入り、畳の床にシグは仰向けに寝っ転がった。ファルコンも座り込む。シグは黄色いコートの下には黒い長ズボンに薄い水色の防水パーカーを着ていた。その下には白い半袖Tシャツを着ている。先が矢印の形になっている尻尾が生えていて背中には大きなコウモリのような翼が生えていた。ファルコンの体には紫色の羽がびっしりと生え、頭は隼の頭をしていた。足も隼のような足をしている。白いローブの下にはアームガードとすね当てを着け、黒い長ズボンをはいてベージュの長袖のポロシャツに革製の茶色い胸当てを着けている。二人はしばらく休んでいた。二人とも魔界から来たのだ。
「あー気持ちいい。」
シグはファルコンに肩揉みしてもらっている。肩揉みが終わってから二人は楽しそうに会話していた。
「ほんとに危なかったよ。僕もうかつだなあ。」
ファルコンが言う。
「ほんとにうかつだね。そんなんでよく旅なんかできるよねえ。人のいいファルコンはかつがれたなあ?」
シグがいつものからかい口調で言う。
「ま、まあねえ。」
ファルコンが答える。しばらく会ってなくても親友は変わっていなかった。
 次の日。つまり馬術大会の日、シグは沙月(沙月は由紀の同級生の女子)や周や赤音といろいろと会話をしていた。沙月や周や赤音はどこか寂しげでもあった。
「学力的には最低じゃねえか?」
周がシグに言う。
「あはは、あたしは旅人だから勉強はあんまりしないからなあ。」
シグがぎこちなく笑う。
「学校には行ってないの?」
沙月が言う。
「失礼な!行ったよ!」
遠くではファルコンが愛馬キールの世話をしている。白いローブは着ていないが兜はかぶっていた。
「あの旅人さんも馬術大会の出場が決まったんだってさ。」
沙月が言う。
「そうなの?」
赤音が言う。みんなが雑談をする中美紀は離れた所で失踪した親友と過ごした日々を思っていた。目を閉じればショートカットの短い黒髪の由紀ちゃんと呼んでいた幼馴染みの姿が見えた。美紀はかぶりをふった。由紀の事ばかり考えるのはやめよう。
 そして馬術大会でファルコンは若いながらも見事な馬術を披露した。
「すごいですね。」
盛り上がる会場で美紀が言う。中学生達も盛り上がっている。退場する時退場門の前でキールは後ろ足立ちになっていなないた。会場は相変わらず盛り上がっていた。
 宿屋でくつろぐ二人。
「君の幼馴染みは魔界の入口がビブロスト以外にあるかもしれないって言ってたね。」
ファルコンが言う。
「ガルムねえ。それを調べに行くってさ。心当たりがあるらしいよ。」
シグが言う。ビブロストとは魔界と人間界の境目と言われている集落だ。(もっと分かりやすく言えばオリバートの喫茶店がある集落)人間界の人間達のほとんどはビブロストの存在を知らない。知られては困るのだ。魔界が人間の手で冒されたりしては大変だ。人間界の人間というのは自分の見たものだけを知って育ち、自分達と違っていて、しかも未確認生物だと何でもかんでも無理に調べようとして捕獲しようとする。シグは翼と尻尾を見られて危うく捕まりそうになった事がある。
「もし別の所に入口があったりして、それで人間界の人間が入り込んだりしなきゃいいけど。」
ガルム本人は今どうしているのだろか。
<解説>
シグとファルコンも登場しメインキャラクターは全員そろいました。シグは前回の番外編旅人の過去で登場したシグと同一人物です。

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いやぁ~、前回の番外編の文字、全然目に入ってなかったっす。し、しかし登場人物を整理して状況を整理して・・・課題が満載です。

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