これはちょっと外を歩いた時に撮った写真。空がきれいですねえ。なんとなく構図がいまいちな様な気もするが。
※今日のお話※
ガルム放浪記 第三話 斬殺鬼再び
やっぱりほのぼの系にはならないようだ。物騒な話ばっか。
それは昼休みに起きた。由紀が通う中学校の一階の誰もいない廊下の窓をしきりとのぞく誰かがいた。茶髪の十代後半位のやせた体の若い男の人だった。 黒い長ズボンに青紫のポロシャツの上からシャツ形の上着を着ている。とても美しい美青年だ。やがて不注意にも鍵が開いている窓を見つけてその窓を開けて身軽に中に入った。まもなくチャイムが鳴った。男は保健室の中を覗いた。誰もいないようなのでその中に入った。
その頃由紀は昨夜の例の右上腕の怪我の痛みが耐えがたいものになってきたので保健室にむかっていた。赤音と美紀も一緒だ。
「由紀大丈夫?」
心配そうに赤音が言った。
「うん・・・・」
由紀は痛そうに右の上腕を押さえていたし声にも元気がない。階段を降りる音が不自然に静まりかえった廊下に響く。二階から一階へと。
「なんか変なくらい静かですね。」
美紀が言った。三人ともなんとなく不安が胸をよぎっていた。
保健室の戸を開けて少し中に入って三人同時に保健室の奥の方に顔をむけて、凍り付いた。そう、そこにはあの斬殺鬼がいたのだ。
「来ると思ったぜ。なあ?えっと、増田って言うのか。」
斬殺鬼が言う。
「あ・・・・・・あ・・・」
三人の口から出た言葉は、言葉にもならない声はそれだけだった。
斬殺鬼はあのナイフを右手で持ちゆっくりと歩みよってきた。
「に、逃げましょうよ!」
美紀が怯えた声ではあるがやっと我に返って言った。
「ぎゃー!」
三人の叫び声が辺りに響きわたった。赤音は職員室の戸を勢いよく開け
「あ!」
とだけ言った。(それしか言えなかった)それだけで、あるいは何も言わなくても分かった。ナイフを持って由紀に襲いかかる斬殺鬼が先生たちにも見えたからだ。明らかに由紀を狙っている。非常用のベルが響きわたり、放送が流された。
「職員室前に不審者が出没しました。生徒は直ちに西階段を通って避難しなさい。繰り返す・・・」
放送が流れる中、由紀はあの傷の痛みと闘いながら、斬殺鬼から必死に逃げていた。明らかに自分を狙っている。なら皆が逃げるのと反対方向に誘い出そう。由紀は皆が逃げるのと反対方向、東に向かって走り出した。運動会や普段よりもずっと速かった。赤音と美紀は心配そうに見ていた。
「ここにいても仕方ありませんよ。行きましょう。」
「・・・・うん。」
由紀はきっと大丈夫だ、という自信をこめて言った。逃げよう、と目で会話して二人は廊下を駆けていった。
いっぽう由紀は昨夜斬殺鬼にきられた右上腕の激しい痛みに悩まされながら体育館を逃げていた。はあ、はあ、と由紀は荒い息をしていた。まるで体がこわばっていくようだ。時間が経つにつれて体が動きづらくなるのだ。必死に逃げ回りながら、由紀は自分が使えるあの特殊能力の事を思い出した。誰にも言えない悩みだった。小学三、四年の時にあの不思議な能力に気づいた。由紀はあの特殊能力を使うことを決心した。不安だけど。
「逃げてばかりの弱虫じゃないんだから。」
由紀はそう呟いた。そして、壁によりかかって座り込んだ姿勢のまま特殊能力を使うために集中した。体育館の中に風が吹きはじめた。由紀の目が斬殺鬼を睨み、黄色く光る。 斬殺鬼のまわりを風の渦が包む。
「な、なんだ?もしや、あいつ・・・」
斬殺鬼の顔に初めて焦りが浮かんだ。斬殺鬼はチっと舌打した。
その時体育館の戸を乱暴に蹴り破ってくる者がいた。少年だ。痩せた細い体に整った精悍な顔つきの黒いジャケットを着て下にねずみ色のTシャツを着てクリーム色のズボンをはいている。黒い鍔つき帽をかぶっている。
「ガルム!」
由紀は思わず叫んだ。斬殺鬼はひどく当惑したのといらだちとの両方を顔に出していていた。
「ケスト、それでどうするつもりだ?」
ガルムは彼特有のニヤリとした斬殺鬼の冷笑とはちがう不適な笑みを浮かべながら言った。どうやら斬殺鬼はケストと呼ばれているらしい。ケストは上を見上げてにやりと笑った。そして鳶に変身して上を通って風の渦を抜け出した。鳶に変身したケストは体育館の窓から出て行った。
由紀は力をぬいて風をとめた。
「大丈夫か?」
由紀の前にかがみながらガルムは言うが見るからに大丈夫ではない。由紀は、はあ、はあ、と荒い息をして、ぐったりとしていた。その後の展開はまたしても語りきれない。すでに長過ぎるほどだから。
主題歌ならぬ主題詩
in to the dark (←題名)
さよならも言わずに出てきてしまった
暗闇の中
あの頃を思い出しさみしくなった
突然終わってしまった幸せな日々
今は一人きりで旅するだけ
いくら望んでも
あの頃へ戻れない
in to the dark
もう振り返らずに進んで行こう
in to the dark
もう後戻りなんてできない
二度とあの懐かしい光景を見ることはないと
分かっていて旅に出た
暗闇のendless journey
<解説>
めっちゃ長い話ばっかりですね。どうでしょうか、主題詩。最後の「暗闇のendless journe」っていうのがエラノールは我ながら気に入っているようです。in to the darkと言うのは前から採用を検討していました。